午後のひとときに、数学の良問、もとい悪問にチャレンジしてみようかと思う。
問題
3.141<π<3.142を示せ
シンキングタ~イム
この問題、1998年の東京大学後期の問題らしく、悪問と囁かれている。
以前の東大の問題で、「π>3.05を示せと」いうものがあったが、あれよりも精度が必要とされることになる。
3.05程度であれば、内接する正8角形くらいを計算することで、語呂合わせで覚えた√を使えば容易に求まるだろう。
今回の問題が狂気に満ちているのは、精度が必要とされていることに付け加え、挟み込んでいることです。
もし、内外接正多角形で挟み込むのであれば、
3.141 < 内接する正m角形の外周 < π < 外接する正n角形の外周 < 3.142
とする必要がある。
単位円に内接する正m角形の1辺の長さをxとすると、
余弦定理より、
x2 = 12 + 12 - 2・cos(2π/m) = 2・(1-cos(2π/m))
x = √2・(1-cos(2π/m))
円周の半分は、
mx/2 = m・√2・(1-cos(2π/m))/2
単位円に外接する正n角形の1辺の長さをyとすると、
y/2 = tan(π/n)
y = 2・tan(π/n)
円周の半分は、
ny/2 = n・tan(π/n)
3.141 < mx/2 < π < ny/2 < 3.142
を満たすようなm、nを電卓などを使って求めると、
m≧94
n≧160
3.141 < 3.1410078387… < π < 3.1419964434… < 3.142
さすが悪問と呼ばれるだけのことはある。
さて、どうしたものか。
唐突だが、こんなものを持ち出す。
(1 + x2)(1 - x2) = 1 - x4 < 1
(1 + x2)(1 - x2 + x4) = 1 + x6 > 1
(1 + x2)(1 - x2 + x4 - x6) = 1 - x8 < 1
(1 + x2)(1 - x2 + x4 - x6 + x8) = 1 + x10 > 1
…
というものを使う。
もし、0<x<1ならば、振動しながら1に収束していくことが解る。
不等号の右の1を(1 + x2)で割ると、
(1 - x2) > 1/(1 + x2)
(1 - x2 + x4) < 1/(1 + x2)
(1 - x2 + x4 - x6) > 1/(1 + x2)
(1 - x2 + x4 - x6 + x8) < 1/(1 + x2)
…
項を増やすと精度が上がるが、どんな値に収束するかというと、
⌠1 ⌡0 | 1 1 + x2 | dx |
x = tan(θ) とおくと、
x:0 → 1
θ:0 → π/4
= | ⌠π/4 ⌡0 | 1 1 + tan2(x) | ・ | 1 cos2(x) | dθ = | π 4 |
とπが絡んできます。
つまり、先の不等式の両辺を、積分区間0から1で積分することで、右辺をπ/4として、挟み撃ちができる。
π 4 | = | 1 1 | - | 1 3 | + | 1 5 | - | 1 7 | + | 1 9 | - | 1 11 | + … |
ライプニッツ級数ですね。
これは収束が遅いので、これではおっつかないかと思います。
もしやったとすると、
下から収束で、
-1/(2・1688-1) = -1/3375
となる項、
上から収束で、
+1/(2・2455-1) = +1/4909
となる項、
つまり、2455項まで求めなければなりません。
3.141 < 3.1410002365… < π < 3.1419999855… < 3.1412
さすが悪問です。
しかし、ちょっと工夫して、積分区間を狭くすると、
⌠1/√3 ⌡0 | 1 1 + x2 | dx = | π 6 |
これならば、どうでしょうか。
π > 6・ | ⎡ ⎣ | x - | 1 3 | x3 | ⎤ ⎦ | 1/√3 0 | = 6・ | ⎡ ⎣ | x・ | ⎛ ⎝ | 1 - | 1 3 | x2 | ⎞ ⎠ | ⎤ ⎦ | 1/√3 0 |
0は常に0なので、
1/√3だけを入れればよく、
都合よく2乗されるので、
π > 2√3・ | ⎛ ⎝ | 1 - | 1 3 | ・ | 1 3 | ⎞ ⎠ | = | 8 9 | ・ | 2√3 | > | 16 9 | ・1.7320 = 3.0791… |
π < 2√3・ | ⎛ ⎝ | 1 - | 1 3 | ・ | 1 3 | + | 1 5 | ・ | 1 9 | ⎞ ⎠ | = | 41 45 | ・ | 2√3 | < | 82 45 | ・1.7321 = 3.1562… |
これを踏まえると、前の計算結果が再利用できるので、もっと計算は楽で、
π > 2√3・ | ⎛ ⎝ | 41 45 | - | 1 7 | ・ | 1 27 | ⎞ ⎠ | = | 856 945 | ・ | 2√3 | > | 1712 945 | ・1.7320 = 3.1377… |
π < 2√3・ | ⎛ ⎝ | 856 945 | + | 1 9 | ・ | 1 81 | ⎞ ⎠ | = | 23147 25515 | ・ | 2√3 | < | 46294 25515 | ・1.7321 = 3.1426… |
π > 2√3・ | ⎛ ⎝ | 23147 25515 | - | 1 11 | ・ | 1 243 | ⎞ ⎠ | = | 254512 280665 | ・ | 2√3 | > | 509024 280665 | ・1.7320 = 3.1412… |
π < 2√3・ | ⎛ ⎝ | 254512 280665 | + | 1 13 | ・ | 1 729 | ⎞ ⎠ | = | 3308941 3648645 | ・ | 2√3 | < | 6617882 3648645 | ・1.7321 = 3.1416… |
Q.E.D.
これでも結構な計算量ですね。
この方法は、マーダヴァによるものですね。
以前、様々な円周率近似式を同じ土俵で競争させたことがありました。
今どきの方法、つまり第3レースのガウス=ルジャンドルの算術幾何平均でやるのが良いのだろうか?
収束は速いが手計算となると開平法を使うことになるので、結果的に面倒な気がする。
マーダヴァと同じ第2レースにいる、冪乗型連分数、階乗型連分数、ラマヌジャン、他のarctan系、どれが良さそうだろうか。
ラマヌジャンは圧倒的に収束が速いのだが、式が複雑で覚えにくい。
かといって、マーダヴァと同じようなarctan系もどうかとは思うので、
冪乗型連分数、つまりブラウンカーの公式でやってみると、
4 | = | 1 + | 12 | |||||||||
π | 3 + | 22 | ||||||||||
5 + | 32 | |||||||||||
7 + | 42 | |||||||||||
9 + | 52 | |||||||||||
11 + | 62 | |||||||||||
13 + | 72 | |||||||||||
15 + | 82 | |||||||||||
17 + | 92 | |||||||||||
19 + | 102 | |||||||||||
⋱ |
ブラウンカーの公式より、
π > 4/(1+(12/3)) = 3
π < 4/(1+(12/(3+22/5))) = 19/6 ≒ 3.1666
π > 4/(1+(12/(3+22/(5+32/7)))) = 160/51 ≒ 3.1372
π < 4/(1+(12/(3+22/(5+32/(7+42/9))))) = 1744/555 ≒ 3.1423
π > 4/(1+(12/(3+22/(5+32/(7+42/(9+52/11)))))) = 644/205 ≒ 3.1414
π < 4/(1+(12/(3+22/(5+32/(7+42/(9+52/(11+62/13))))))) = 10116/3220 ≒ 3.1416
よって、
3.141 < 644/205 < π < 10116/3222 < 3.142
Q.E.D.
手計算ならば、これが一番楽で速いのではなかろうか。
というわけで、ブラウンカーの公式は簡単なので覚えておいたほうがいい。
という結論です。
但し、受験で使えるかと言われると、どうなんでしょうか。
ユークリッドの互除法はやるだろうから、連分数も扱うだろう。
ブラウンカーの公式を高校で教えてくれていれば、いいのだが…
ではでは
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