昨日の記事で予告した通り、ネイピア数eについて、書いてみようかと思う。
ネイピア数は、高校で対数を習うと自然対数の底として出てきて、極限のlimで定義されていて、微分積分でも出て来る。
e= | lim n→∞ | ⎛ ⎝ | 1+ | 1 n | ⎞ ⎠ | n |
と定義されていて、
e=2.71828182845904523536028747135266249775724709369995…
といった定数で、無理数であり、超越数である。
数学は何事も定義次第なのだが、これではeが何者なのかが解りづらい。
また、高校数学で習う順番も、解りづらくしている要因かもしれない。
算数や数学を段階的に学んでいくと、様々な概念や数(定数)が登場してくる。
その概念には基準となる値があったりします。
足し算や引き算を習うと、ある値を足しても、引いても、変化しない値がありますよね。
それは0です。
掛け算や割り算を習うと、ある値を掛けても、割っても、変化しない値がありますよね。
それは1です。
円を習うと、直径に対して、円周の長さの比で、
直径:円周
=1:3.14159265358979323846264338327950288419716939937510…
という定数で、無理数で、超越数であり、小学校では有理数までしか学ばないので3.14程度に留め、中学以降はπを使うことになる。
ある長方形が長辺同士の中点で半分にしても、半分になった長方形が元の長方形と相似となるときの短辺と長辺の比で、
短辺:長辺=1: | 1+√5 2 |
この比を黄金比φと言って、
φ=1.61803398874989484820458683436563811772030917980576…
という定数で、無理数であるが、これは超越数ではなく、代数的数である。
階乗を習うと、nが自然数は計算で求められるが、n=0、つまり0!は
0!=1
と定義されている。
これは、階乗を使う様々な計算において、階乗は掛け算なので、1が基準であることが都合が良いのである。
こんな風に、新しい概念には決まって都合の良い、基準となる数(定数)があったりします。
では、ネイピア数はどんな概念の、都合の良い、基準となる数(定数)なのだろうか?
微分における基準の数と考えると理解がはやい。
微分積分を習う前に、対数で登場してしまうので、意味が解らないまま指数対数計算をしなければならないというのが、ネイピア数の悲劇なのかもしれない。
y=f(x)という曲線があったとして、y=f(x)上の点(a, f(a))における傾きを求めたいとしよう。
傾きを求める方法が微分であり、どうやって傾きを求めるかというと、
傾き= | yの増加量 xの増加量 |
と習ったかと思うが、このxの増加量をどんどんと小さくしていくと、求めたい点の傾きが求まるというからくりで、微分の定義は、傾きの式を、aからa+hまでのxの増加量に対して、f(a)からf(a+h)までのyの増加量で、hを限りなく0に近づければ良いので、極限を使って、
lim h→+0 | f(a+h)-f(a) (a+h)-a | = | lim h→+0 | f(a+h)-f(a) h |
の様に表すことが出来る。
これが微分の定義である。
このように微小な直角三角形を考えるので、xの増加量とはcos(θ)であり、yの増加量とはsin(θ)であるから、傾きはtan(θ)ということになり、微分積分が三角関数と親和性が高いとも言えます。
では、微分がネイピア数とどういう繋がりを見せるのだろうか?
微分の基準の数(定数)というものを考えるとしたら、どんな値が望ましいだろうか。
それは、微分しても変わらない、
f(x)=f'(x)
のxの値というものだと考えるに至ることだろう。
そこで、
y=ax
という指数関数が都合がよくて、
f(x)=ex
は微分しても、
f'(x)=ex
と変わらないのである。
まさに、これが微分における基準の数である。
そこで、先の微分の定義に当てはめると、
f(x)=ax
として、
f'(x)= | lim h→+0 | f(x+h)-f(x) h |
= | lim h→+0 | ax+h-ax h |
= | lim h→+0 | ax・ah-ax h |
= | lim h→+0 | ax(ah-1) h |
=ax・ | ⎛ ⎝ | lim h→+0 | ah-1 h | ⎞ ⎠ |
=f(x)・ | ⎛ ⎝ | lim h→+0 | ah-1 h | ⎞ ⎠ |
f'(x)=f(x)なので、
lim h→+0 | ah-1 h | =1 |
が成り立てば良く、つまりはaがどんな値なら等式が成り立つのかということであり、
両辺をh倍して、
lim h→+0 | ah-1= | lim h→+0 | h |
1を移項して、
lim h→+0 | ah= | lim h→+0 | 1+h |
両辺を1/h乗して、
lim h→+0 | ah/h= | lim h→+0 | (1+h)1/h |
1/h=nとおくと、h/h=1で左辺からhが完全に消え、limも消え、
a= | lim n→∞ | ⎛ ⎝ | 1+ | 1 n | ⎞ ⎠ | n |
となって、右辺はネイピア数eの定義であるから、
a=e
となる。
これが、ネイピア数eの定義の所以である。
なので、微分をやってからならば、ネイピア数eの定義の出どころが解り、ようやく理解出来ることとなる。
その前に対数をやって、自然対数の底としてネイピア数eを習って、極限で定義だけを見ても、チンプンカンプンなのは当たり前だろう。
こうやって丁寧に式変形していけば、ネイピア数が何者なのかが解ってきたかと思う。
f(x)=exのとき、
f'(x)=exと変わらず。
f(x)=logexのとき、
f'(x)= | 1 x | =x-1 |
という、eは微分において、かなり都合の良い値であることが解ったことだろう。
さて、微分においてeの立ち位置は解った。
では、自然対数の底としてのeは何なんだろうか。
対数螺旋、ベルヌーイ螺旋と言われるものがあって、
極座標において、
r=a・ebθ
という関数は、赤線のような螺旋を描くこととなる。
aの符号が変われば逆巻に、bの大小でスケールが変わる。
また任意の倍率に変更したとしても、自己相似図形、つまりフラクタルである。
この螺旋の形、どこかで見た記憶はないだろうか?
巻き貝だったり、鷹が獲物を捉えて旋回しながら近づいていく軌跡だったり、台風の形だったり、渦巻き銀河だったり、自然界では大小問わず当たり前のように存在する普遍的な形である。
この形に、任意の仰角αの青線を引くと、赤線の青線との交点の傾きは常に等しいのである。
このことから、等角螺旋とも呼ばれたりもする。
さて、生物である巻き貝や鷹は、こんなことを知っているのだろうか?
はたまた、生物でもない台風、渦巻き銀河は、こんなことを知っているのだろうか?
これは自然現象であり、無意識にこの形状になってしまっている。
つまり、ネイピア数eは自然界には当たり前に存在する値であるということである。
また、複利計算においても登場する値であるから、金融にも関係しているだろう。
ネイピア数の定義のnは、1年をn回に分けて複利を計算するということである。
nが増えると、ネイピア数に収束していく。
この計算をヤコブ・ベルヌーイ(1654~1705)が行って、ネイピア数の値の計算となったのである。
ネイピア数の値の計算は、金融だったのですね。
この定数にbという記号を割り当てた、同時代のゴットフリート・ライプニッツ(1646~1716)であり、微分積分において、切り離せない値となっていく。
eという記号を割り当てたのは、レオンハルト・オイラー(1707~1783)である。
ネイピア数の名前の由来になったのは、ジョン・ネイピア(1550~1617)であり、対数の発見者である。
eは数学において、もっといえば自然科学の各分野、金融においてなどなど、重要な数であることがお解り頂けたであろうか。
このブログにおいても、度々ネイピア数を扱っているので、それらの記事も読んでみるとネイピア数についての知見が広がることだろう。
まだまだありそうだが、このへんにしておく。
ではでは