午後のひとときに、数学の問題を解いてみる。
京都大学の入試問題として超有名なものとして、
「tan1˚は有理数か?」
というものがある。
tan1˚の証明は出来るが、sin1˚やcos1˚も、同じ手順で出来るのだろうか?
まずは、tan1˚の証明方法として、自分が知っている最も簡潔なものを紹介する。
tan(1˚)が有理数だと仮定すると、
tanの倍角の公式
tan(2θ)=2tan(θ)/(1-tan2(θ))
の右辺が有理数であることは明白。
よって、左辺も有理数である。
倍角の公式を繰り返すと、
tan(2˚)
tan(4˚)
tan(8˚)
︙
tan(2n)
となり、いずれも有理数である。
tanの加法定理
tan(α-β)=(tan(α)-tan(β))/(1-tan(α)tan(β))
の右辺が有理数であることは明白。
よって、左辺も有理数である。
これらより、
tan((25)˚-(21)˚)も有理数であるが、
=tan(32˚-2˚)
=tan(30˚)
=1/√3
と矛盾する。
よって、
tan(1˚)は無理数。
こういった流れで、tan(1˚)が無理数であることを証明するのだが、sin(1˚)やcos(1˚)は、同じような手順で行けるのだろうか。
一筋縄で行かない理由として、それぞれの加法定理を見てみよう。
sin(α+β)=sin(α)cos(β)+cos(α)sin(β)
sin(α-β)=sin(α)cos(β)-cos(α)sin(β)
cos(α+β)=cos(α)cos(β)-sin(α)sin(β)
cos(α-β)=cos(α)cos(β)+sin(α)sin(β)
sinの証明に、cosが
cosの証明に、sinが
それぞれ出てきてしまうので、それを取り除くのが厄介である。
チェビシェフの多項式を使えば、cosは出来そうだが、中高生に理解してもらうには、一から説明が必要になるだろうから、証明が長くなってしまうだろう。
cos(1˚)が有理数と仮定すると、
cosの倍角の公式
cos(2θ)=2cos2(θ)-1
の右辺が有理数であることは明白。
よって、左辺も有理数である。
同様に、3倍角、4倍角、5倍角と、増やして行くと、
cos(2θ)=2cos2(θ)-1
cos(3θ)=4cos3(θ)-3cos(θ)
cos(4θ)=8cos4(θ)-8cos2(θ)+2
︙
cos((n+2)θ)=2cos((n+1)θ)cos(θ)-cos(nθ)
右辺が有理数であることは明白。
よって左辺も有理数である。
n=28、θ=1˚のとき、
cos((n+2)θ)=cos(30˚)=√3/2
と矛盾する。
よって、
cos(1˚)は無理数。
チェビシェフの多項式は、
Tn=cos(nθ)
とおくと、
Tn+2=2Tn+1T1-Tn
という三項間漸化式。
T1=cos(θ)
T2=2cos2(θ)-1
が解れば、それ以降は代入するだけで、次々と求まります。
sin(1˚)を有理数と仮定すると、
sinの3倍角の公式
sin(3θ)=-4sin3(θ)+3sin(θ)
右辺が有理数であることは明白。
よって、左辺も有理数である。
同様に、5倍角、7倍角、9倍角と、増やしていくと
sin(3θ)=-4sin3(θ)+3sin(θ)
sin(5θ)=16sin5(θ)-20sin3(θ)+5sin(θ)
sin(7θ)=-64sin7(θ)+112sin5(θ)-56sin3(θ)+7sin(θ)
︙
sin((2n+3)θ)=2sin((2n+1)θ)(1-2sin2(θ))-sin((2n-1)θ)
右辺が有理数であることは明白。
よって、左辺も有理数である。
n=21、θ=1˚のとき、
sin((2n+3)θ)=sin(45˚)=1/√2
と矛盾する。
よって、
sin(1˚)は無理数である。
sin、cos、tan、全てが、他の三角関数を使わずに無理数であることが証明できました。
しかし、cos、sinと面倒になっていることは否めないし、複雑な式を覚えているとも思えないし、試験中に導出するのも手間が掛かる。
かといって、チェビシェフの多項式より、といったように躊躇なく使えるかと言われると、難しいだろう。
更に言うと、√2、√3が無理数である証明をしてないといったことも、突っ込まれそうではある。
その辺りを補足しておく。
√2が有理数だと仮定すると、
x=√2とおくと、
x2=2
右辺が自然数なので、左辺も自然数。
xは2という約数を持たなければならないので、
x=2kとおくと、
(2k)2=2
4k2=2
2k2=1
左辺は2という約数を持つが、右辺は持たないため矛盾する。
よって、
√2は無理数である。
素因数分解して、素因数の個数から矛盾を導く方法もありますが、そちらは素因数分解の一意性を証明する必要がある可能性もあるので、面倒だと思いこちらを採用しました。
明白とか、自明とか書いてしまっているが、
ある数が有理数である条件は、分母分子を共に整数の形で表せれば良い。
つまり、今回のケースで明白と書いた部分は、有理数だけを使った四則演算の式は有理数ということです。
因みに、cos(1˚)は、大阪大学の後期試験で、導入問題がありつつ出題されたようです。
ではでは